代謝を休眠する〜Torpor〜

炭水化物と脂肪酸のエネルギー代謝バランス

~代謝学的休眠様のメタボリズム~

生体は飽食時に余剰エネルギーを炭水化物(グリコーゲン)あるいは中性脂肪に変えて貯蔵エネルギーとして蓄えます。1) 一方で、飢餓では炭水化物をまずエネルギー源として利用し、そのエネルギーが枯渇した際に、生体を維持するため中性脂肪を動員してエネルギーを得ることが古くから知られていました。当時、炭水化物(グリコーゲン)と中性脂脂肪の合成はインスリン等の液性因子にのみ制御されていると考えられていましたが、その代謝優先順位はどのように制御されるのか?

―その答えとして、私たちはこれらの一連の生体反応が、神経の働きにより精緻に代謝がコントロールされていることを発見しました。さらに、この反応はホルモンなどの液性因子を介さず、末梢神経と中枢神経を経由し、肝臓内の炭水化物(グリコーゲン)と腹腔内の脂肪組織における中性脂肪がコミュニケーションを図り代謝が制御されていることを初めて明らかにしました。2)
つまり、そのエネルギー代謝バランスは、このように内分泌ではない神経制御によるFine tuningが関与していることが徐々に明らかになってきたのです。

さらに、知的好奇心をくすぐられた我々はその発露となるメカニズムの探求の旅に出ることになりました。 そこで新たな発見につながったのが、代謝の休眠~Torpor~の様な代謝を引き起こす現象です。

興味深いことに、この現象はちょうどリスやクマのような動物の体内で起こる冬眠・休眠に似た代謝パターンとなり、中性脂肪を優先的に利用する代謝に傾斜していくことが分かってきました。

さらに詳しく調べてみると、生体の脂肪組織と肝臓の中性脂肪が減少することで、炎症反応が減弱し、酸化ストレスや線維化が抑制されることから、代謝改善薬としての製剤開発研究を開始し米国ベンチャーファーマを創業し、実臨床に製剤として成果を還元すべく研究を続けることとなりました。 

幸運にもこの炭水化物と中性脂肪をつなぐ鍵分子を見つけられた訳ですが、さらにグローバルな視点で、医学そして医療に貢献するスタイルを追求し、我々は挑戦を続けていきます。

疾患特異的に高い奏功性が期待できる遺伝子治療・核酸医薬品で一人でも多くの希少難治性遺伝性疾患の患者さんを救えるよう日々研究を進めて参ります。

1) IdeT et al., Nat Cell Biol 2004 Apr;6(4):351-7. doi: 10.1038/ncb1111.
2) Izumida Y et al, Nature Commun (4)2316 (2013) DOI https://doi.org/10.1038/ncomms3316