紹介論文
- Wilding JPH, et al. Once-Weekly Semaglutide in Adults with Overweight or Obesity. The New England Journal of Medicine, 2021; 384(11): 989-1002.
- Wilding JPH, et al. Weight regain and cardiometabolic effects after withdrawal of semaglutide: The STEP 1 trial extension. Diabetes, Obesity and Metabolism, 2022; 24(8): 1553-1564.
Take-home Message
- 糖尿病のない肥満・過体重成人に対するセマグルチド(商品名:ウゴービ®)2.4 mg週1回皮下注と生活習慣介入の併用は、68週間で平均14.9%という驚異的かつ臨床的に意義のある体重減少をもたらした。
- 治療(セマグルチドおよび生活習慣介入)を完全に中止して約1年(52週間)経過すると、減少した体重の約3分の2がリバウンドして元に戻ってしまうことが明らかになった。
- 血圧や血糖などの心血管リスク因子も治療中止に伴いベースラインに向かって悪化傾向を示すため、肥満症を「慢性疾患」として捉え、良好な代謝状態を維持するためには継続的な薬物治療が不可欠であることが示唆された。
要約
肥満は世界的な公衆衛生上の問題であり、健康障害を伴う「慢性疾患」として薬剤治療の対象となっている。本研究(STEP 1本試験)では、糖尿病のない肥満・過体重の成人1961名を対象に、セマグルチド2.4 mg週1回投与の有効性と安全性が検証された。68週間の治療の結果、セマグルチド群はプラセボ群(-2.4%)と比較して有意に大きな体重減少(-14.9%)を達成し、ベースラインから5%、10%、15%、20%以上の体重減少を達成した割合もプラセボ群に比べて有意に高かった。さらに、ウエスト周囲長、心血管リスク因子(血圧、脂質、CRPなど)や身体機能のスコアも大きく改善した。
一方で、STEP 1試験を完了した参加者のうち333名を対象に行われた延長試験では、治療(お薬および生活習慣介入)を完全に中止した後の1年間(68週〜120週)の推移が追跡された。結果として、治療中止後に両群で体重の回復(リバウンド)が観察され、120週時点でのセマグルチド群の全期間を通した純平均体重減少は-5.6%にとどまった。また、治療期間中に改善した収縮期・拡張期血圧やHbA1cといった心血管リスク因子も、治療中止後はベースラインのレベルに向かって悪化することが確認された。治療開始時に前糖尿病であった患者の多くが68週時点で正常血糖に改善したものの(セマグルチド群で84.1%)、これらも治療中止後には再び悪化を認めた。
【面白かった点・臨床的な意義】
日常の糖尿病・肥満外来において、我々臨床医はGLP-1受容体作動薬の強力な減量効果を広く実感していますが、このSTEP 1試験とその延長試験のデータは「肥満は治癒する一過性の状態ではなく、継続的な管理が必要な慢性疾患である」という事実を、これ以上ないほど明確に突きつけています。
特に個人的に興味深かったのは、68週の治療期間中に体重減少が大きかった人ほど、離脱後に体重の回復が大きい傾向があったという延長試験のサブグループ解析結果です。高血圧や糖尿病の患者さんが「数値が良くなったから薬をやめる」とまた悪化してしまうのと全く同じように、抗肥満薬による治療も「やせたら終わり」ではなく、治療の継続が不可欠であることが如実に表れています。
リバウンドが起こる背景として、生理的にどのようなホルモン動態の揺り戻しが起きているのか、ヒトにおける代謝・内分泌学的な根本メカニズムの解明に向けて、今後の研究の発展が非常に楽しみになる奥の深い論文でした。