紹介論文
Dysregulated mast cell activation induced by diabetic milieu exacerbates the progression of diabetic peripheral neuropathy in mice
(糖尿病環境によって引き起こされるマスト細胞の異常な活性化は、マウスにおける糖尿病性末梢神経障害の進行を増悪させる)
Yao X, et al. Nat Commun. 2025;16:4170.
Take-home Message
糖尿病環境下におけるマスト細胞(肥満細胞)の異常な活性化が、糖尿病性末梢神経障害(DPN)の進行を悪化させることがマウスモデルで示された。
マスト細胞の安定化(脱顆粒の抑制)が、DPNの新たな治療ターゲットとなる可能性を秘めている!
要約
糖尿病によく見られる合併症である糖尿病性末梢神経障害(DPN)は、免疫代謝ストレスに起因する重度な微小環境のインバランスと関連している。しかしながら、その根底にあるメカニズムの駆動要因(推進要因)は依然として解明されていない。
本研究において、ヒト末梢神経のシングルセルアトラスを作成し、DPNにおける細胞特異的な転写変化と、マスト細胞(肥満細胞)の異常な増生を同定した。さらに、ストレプトゾトシン誘発糖尿病マウスモデルを用いて、高グルコース(HG)の糖尿病環境下において、GLUT3を介したグルコースの取り込みがマウスマスト細胞におけるERK1/2のリン酸化を亢進させることを見出した。
また、持続的な高グルコース刺激はmTORの異常な過活動を誘発し、結果として小胞体ストレスおよびミトコンドリア酸化ストレスを引き起こすことで、マスト細胞のミトコンドリア機能を障害する。そして、制御不全に陥ったマスト細胞は脱顆粒を生じ、ヒスタミン、トリプターゼ、および炎症性因子を神経の微小環境へと放出することで、糖尿病マウスに神経障害を引き起こす。
最後に、マスト細胞を欠損させたマウスでは、神経における免疫インバランスおよび神経障害の進行が抑制(保護)されることが示された。以上の結果から、マスト細胞の異常な活性化がDPNの進行における潜在的な駆動要因であることを示唆している。
※本研究はマウスモデル等を用いた基礎研究の段階であり、実際のヒトの治療薬としての効果は今後の臨床研究を待つ必要があります
【面白かった点・臨床的な意義】
マスト細胞といえば「アレルギー」というイメージが強いですが、神経障害の増悪因子として働いているというメカニズムは非常に興味深いです。
実際の臨床現場において、DPN患者さんの疼痛コントロールに苦渋するケースは少なくありません。既存のプレガバリンやデュロキセチンといった対症療法的な神経障害性疼痛治療薬に加え、現在アレルギー疾患の治療薬として使用されているマスト細胞安定化薬などが、将来的にDPNの新たな治療薬として応用される可能性を感じさせてくれました。根本的な病態介入の視点を持つ良いきっかけになり、臨床医としても非常にワクワクする内容でした。